第5章 【第四訓】喧嘩はグーでやるべしの朝の話
「またこんな所で寝て! 風邪引きますよ!」
瞼を開けると、明るい木目の天井が目に入った。
ここはどこだろう。意識がぼんやりする。
夢を見ていた気がするが、どんなものだったかは思い出せない。
上半身を起こし、○○は周囲を見回した。
見覚えのない部屋の内装。
見知らぬ部屋で、○○は布団に包まれていた。
「銀さん!」
隣の部屋から男の声がする。
○○は静かに起き上がると、わずかに襖を開いて様子をうかがった。
「銀さん!」
見えたのは、青い袴を穿いた少年の横顔。
彼は足元のソファに向かって声を上げていた。
その顔には覚えがあった。
『ホテル池田屋』で銀髪男と一緒にいたメガネの少年だ。
「銀さんってば! 起きて下さい! 今、何時だと思っ――」
「あのォ」
「うわ!」
誰もいないと思っていた部屋が突然開き、見知らぬ女が現れたため、少年は驚いて身を震わせた。
「だだ、誰ですかアンタ!? なんで人んちに! あ、僕んちじゃないですけど!」
丸いレンズの中の目玉をも丸くして、少年は○○に向かって言葉をあびせかける。
○○はソファで横になっている人物を見た。思った通り、○○の名を口にしたあの銀髪男だ。
ここはこの男の家のようだ。なぜ、こんな所に。○○は前日の記憶をたどる。
「あの、聞いてますか」
○○が何も答えないため、少年は途方に暮れる。
「あの」
再度、声をかけようとした時、背後からの声に少年は振り返った。