第22章 【第二十一訓】百万編の詩より一吠えのワン🐾の話
「行って来まーす」
定春の体に異変が起こってから三日。
○○は定春を心配し屯所には戻らず、万事屋で過ごしていた。
玄関を開けると、万事屋を見上げていた人々の視線が○○に注がれた。
階段を下りる。視線は常に付きまとっている。
「すいませーん。ニュース・ザ 江戸の花野と申します」
下りきった所で、マイクとカメラを向けられた。
「巨大犬の飼い主さんですよね」
あの朝、巨大化した定春の体はさらに大きさを増し、天井を突き破った。
現在、万事屋の屋根からは定春の頭が突き出ている。
その存在は江戸を席巻し、こうしてワイドショーにまで取り上げられるようになった。
「朝早くからお疲れ様です。働く女性へのインタビューですか? そうですね、やっぱり産休、育休への対応を各企業には徹底していただきたいですね」
「おっしゃるとおりです。弊社では徹底されていますよ。ですが、今回はあの巨大犬について……」
「今日は雨降るんでしょうかね。もう空、曇ってますけど」
○○は空を見上げた。
花野も釣られたように見上げる。
「確かに曇り空ですね。でも私は気象予報士ではないので、詳しくは……」
「あら、失礼。花野アナは無能アナウンサーでしたね」
「誰が無能だァァァ!」
「やっぱりアナウンサーは結野アナに限りますね。お天気が読めて、美人で、いつも笑顔で明るくて。うちの人も大ファンですのよ」
おほほほほと言いながら、○○は淑やかに口元に手を置く。
「話が聞きたければ、結野アナでも連れて来て下さい。それでは、仕事に遅れてしまいますので、これで」