第20章 【第十九訓】でんでん虫虫エスカルゴの話
「○○に忘れられても、悲しくもなんともないワン。どうでもいいんだワン」
「そうだよね。そうじゃないなら、思い出させようって手伝ってくれるよね」
銀時が記憶を失った時のように。
○○は太郎の頬を両手で挟みながら会話をする。太郎は舌を出してハアハアと息を漏らしている。
犬との対話。○○による腹話術。
「僕は骨っこさえ食べられればどうでもいいワン」
「ごめんね。私まだ生きてるから骨はあげられないよ」
「じゃあ肉ごと噛み切ってくれるワァァァァン」
「あーれー、お助けェェェ」
「丸のみだワァァァン」
観客のいない一人芝居。太郎は成すがままにされている。
自分の行いにようやく阿呆らしさを感じ、○○は太郎の頬から手を離す。
○○は太郎の頭を撫でながら、ポツリと言葉を落とした。
背後に黒い影が落ちていることにも気づかずに。
「ねェ、アゼルバイジャン。記憶を失くす前の私も、銀さんのことが好きだったのかなァ?」
今の自分は、あの男に惚れている。