第19章 【第十八訓】細かく数えなきゃ煩悩って108もなさそうな話
「今頃、真選組でも紅白とか見てるんですかね。よかったですね。近藤さんの記憶も戻って」
思い出したように、新八は言葉を発した。
銀時と共に、近藤も記憶を失っていた。銀時の記憶が戻ったあと、新八は気になって○○に尋ねた。
そもそもの原因が姉の料理にあったので、新八はそれなりに気にかけていた。
そういえばと思い、○○は屯所を訪ねてみた。
「局長ォォォ! いつまでそんなもの作ってるんですかァァァ!」
○○が見たのは、頭を抱えて苦悩している山崎。
近藤は隊服に身を包んでこそいたが、やっていることは隊務ではなかった。
円柱型の筒に細い棒を左右から二本刺し、角度の調整をしていた。
その円筒に顔の描かれたドーム状のものを乗せて完成らしいが、それを見て何やら唸っている。
「何してんの、それ」
「○○さん!」
近藤が作っているものは、ジャスタウェイと呼ばれるものだった。
ジャスタウェイとは、記憶喪失中の銀時と近藤が働いていた工場で作っていたもので、その実は爆弾。
工場は閉鎖されたが、近藤はその後もジャスタウェイ作りに精を出していた。
ただし、これは町の文具屋で買った材料なので爆発の危険はない。
「局長の記憶が戻らないんです。どうしたらいいですか」
「どうしたらって言われても」
大体、私だって記憶喪失だっつーのという言葉を飲み込みつつ、○○は無心にジャスタウェイを見つめる近藤に目を向ける。
「別に……このままでいいんじゃない?」
「○○さんまで、みんなと同じこと言わないで下さい!」
近藤が記憶喪失になっていると知り、隊士達も初めのうちは記憶を取り戻させようと手を尽くした。
だが、近藤がこの状態でも隊の活動に影響はないと気づいた隊士達は、一人、また一人と放っておくようになった。
今では、近藤を気にしているのは山崎だけだ。
「今までも大して仕事してなかったでしょ」
「なんてこと言うんですか! いくら、本当のことでも!」
山崎に懇願され、○○はしばらく屯所にとどまることになった。