第19章 【第十八訓】細かく数えなきゃ煩悩って108もなさそうな話
十二月三十一日。大晦日の夜。
肘をつき、○○は窓の外の夜空を見上げている。
漆黒の夜空は厚い雲に覆われていた。
「遅いですね、銀さん」
向かいに座る新八は、○○の様子に気づいて声をかけた。
ジャンプを買いに出た銀時が、なかなか帰って来ない。
考えているのは、銀時のことだろう。
「やっぱり、私が行けばよかった。捜して来ようかなァ」
こたつから覗く定春の頭を撫でる。
「入れ違いになってしまうかもしれませんから待ちましょう。せっかく、銀さんが行くって言ってくれたんですから」
記憶喪失事件以降、ジャンプは○○が買いに行くと決められた。
だが、今日は年越しと正月の準備に追われ、すっかり忘れてしまっていた。
今から買って来ると言った○○を制し、銀時は出て行った。
――もう夜も遅ェ。こんな時間に出歩くな。
と、言い残して。
「女性の夜の一人歩きは危ないですからね」
あの銀時が他人の身を案じている――
その言葉を聞き、新八は一瞬驚いたが、それは新八の予想を裏づけるものにもなった。
銀時は、○○のことが好きなのではないか。
近頃、新八はそう感じている。だが、あの男にそんな人並みの恋心があるとも思えない。
「そういう意味じゃないと思うよ」
○○は真っ暗な夜空を見て呟いた。
万事屋へ背負われて行った夜と、夢幻教総本山に乗り込んだ夜の件で、銀時は気づいたはずだ。
夜になると、○○の身に異変が起こる。
「今日は大丈夫そうだから、私が行くって言ったんだけどな」
今日は月が出ていない。
『夢幻教』に乗り込んだ日に、○○は気がついた。
銀時に背負われて屋敷を出た時、周りの景色が随分はっきりと見えた。
あんなに明るい夜を、○○は知らなかった。
キャサリンを助けに行った夜も、恒道館に向かった夜も、街は闇に覆われていた。
夜の闇を明るく照らす存在があることに、○○は気がついた。
自身に異変が起こる夜には、月が浮かんでいたはずだ。
闇に加え、月が出ていること。それが、○○に異変を生じさせる。
○○よりも情報の少ない銀時は、そこまでは考え至っていない。