第18章 【第十七訓】どうでもいいことは忘れていい話
道場で正座をし、○○は精神を集中させる。
万事屋が倒壊してしまったため、○○と神楽は新八の家へと身を寄せさせてもらっていた。
銀時は、あれから行方が知れていない。
深呼吸をするも、雑念は消えない。心の乱れは、剣の乱れ。閉じていた目を開く。
○○にとって道場は精神を安定させられる一番の場所。だが、心は千々に乱れている。
万事屋の前で別れた際の銀時の背中が瞼に焼きついている。
なぜ、追いかけなかったのだろう。
それは、銀時の辛さが○○には理解出来たからだ。
○○、新八、神楽は、銀時の記憶を取り戻そうと労を尽くした。けれど、銀時は何も思い出せなかった。
もしも、自分が記憶を失ったのが、知り合いに囲まれた場所であったなら――
仮に、銀時や桂が記憶を取り戻そうと手を尽くしてくれたら――
何も思い出せなかったら、申し訳なく思うのではないか。
竹刀を握り、立ち上がる。
視線の高さに剣先を構える。
意識の乱れが軸をぶれさせる。
切っ先の向こうに、銀時が見える。
「銀さん……」
昔の銀時のことを忘れてしまった。でも、今の銀時は知っている。
○○にとって、銀時は江戸で出会った人。
銀時も忘れてしまったのなら、もう一度、出会えばいい。
あの人は、とても大事な、必要な人だから。
その思いは――
踵を返し、○○は出入口へと走った。
「わ!」
「うわ!」
角を曲がろうとした所で、新八と出くわした。
双方、走っていたため、危うく激突する所だった。
○○は自分の思いを告げる。
「新八君! やっぱり、銀さん捜しに行かなきゃ!」
「○○さん! 銀さん、見つかりました!」
新八の言葉は、○○の言葉と重なった。
銀時を大事に思い、必要としているのは、新八と神楽も同じ。
たとえ、記憶を失って、今までの銀時と別人のようになったとしても。