第18章 【第十七訓】どうでもいいことは忘れていい話
夕方になっても、銀時の記憶は戻らなかった。
一時は戻りかけたが、妙が作った卵焼きという毒物によって、彼は再び記憶を飛ばしてしまった。
万事屋へと戻る四人の足取りは重い。
「どうすればいいんだろう」
○○は足元を見て呟いた。
江戸中を歩いてみたが、銀時に変化はない。
「今日は家に帰ってゆっくり休みましょ」
ゆっくり思い出せばいいと新八と神楽も言うが、二人も内心は焦っているだろう。
「ね、○○さん」
新八は○○に笑顔を向ける。
記憶が戻らないことに銀時は責任を感じてしまっているため、新八も神楽も楽観的に振舞っている。
「うん。そうだね」
○○もどうにか笑顔を見せようとするが、上手くは笑えなかった。
新八と神楽以上に、○○は懸念している。○○自身が、長い間、記憶を失ったままでいる。
銀時も同じようになってしまうのではないかと思わざるを得ない。
「外よりウチの方が一杯、思い出アルネ」
「そうだよ。いつも四人で……」
○○は喧騒に気づいて言葉を止めた。万事屋の前に人が集まっていた。人々の視線は頭上に注がれていた。
呆然と、○○はそれを見つめる。万事屋の屋根に宇宙船が刺さっている。万事屋は全壊。
思い出の場所を失くしてしまった四人は途方に暮れる。
「みんな帰る所があるんでしょう?」
自分さえいなくなれば、○○も新八も神楽も、自由に生きられる。
記憶も住まいも失った銀時は、万事屋の解散を告げた。
「帰る所なんてないわよ! 私だって、記憶が――」
違う。
○○は言葉を止めた。
今の○○には万事屋の仲間、真選組の元同僚、江戸で出会った多くの人達がいる。
知り合いがいない場所での再出発だったから、誰に心配をかけることもなく、新しい道を歩めた。
「そうでしょう。貴女も前の記憶を失くして、新しい記憶の上で生きている。僕も、そうやって生きて行きます」
銀時は三人の前から姿を消した。