第16章 【第十五訓】美味しいものほど当たると恐い話
「話は銀時から聞いた。大変なことになっていたのだな」
○○が過去の記憶を失っていると、桂は銀時から聞いていた。
銀時が医者に変装し、桂を入院させようと画策したあとに。
○○はその件については何も知らない。
「よもや、○○殿が俺を嫌うなどあるはずもない。すぐに気づけなくてすまなんだ」
桂は目を瞑り、腕を組んでいる。
○○に嫌われたと勘違いした桂は、その後、○○の病室に近づくことはなかった。
○○は○○で、自分が攘夷志士であることへの疑念に取りつかれていたため、桂の存在の重大さには思い至っていなかった。
この男は、銀時以外に自分の過去を知っている人物なのだ。
「私達の故郷って、どこなの?」
「ふむ、どこだったか。俺も昔は振り返らぬ性質なのでな。昔のことはきれいさっぱり忘れた」
「は?」
桂は首を上下させている。
○○は顔を歪ませた。この無理やりな口の閉ざし方には覚えがある。
爪先立ちし、○○は桂の胸倉を掴み上げる。
「何をする。俺は本当に何も知らん」
「ヅラ、アンタ銀さんに何を吹き込まれた?」
「ヅラじゃない、桂だ。というか、昔のように小太郎と呼んでくれ」
「なんでそこだけ昔とか言ってんのよ!」
目を吊り上げ、○○は桂を睨み上げる。