第16章 【第十五訓】美味しいものほど当たると恐い話
「お主、本当に○○殿か? 随分と凶暴になったじゃないか。銀時か? 銀時に何をされた?」
「それは私の台詞だ! 銀さんに何て口止めされたのよ!」
過去を知りたいという思いは薄れているが、こうして口裏を合わされると不快にもなる。
「大切なのは過去ではなく、今後の俺達の暮らしだろう。退院したら、俺と共に……いや、○○殿にとっては、俺とはまだ出会ったばかりか。この言葉はまだ言わないでおこう」
桂は一人、妄想世界へと旅立っている。
幕府の武力を集結した、対テロ用戦闘部隊真選組の手にも負えない攘夷派組織の頭目が、こんなふざけた男だったとは。
○○はガクリと肩を落とす。
「どうした、○○殿。気分が悪いのか? 病院はすぐそこだ。俺が連れて行ってやろう」
桂が○○の肩を抱こうとしたその時に、突如として空からその球体は降って来た。
「ぐおっ!」
ガツンという鈍い音と共に、桂の苦痛の声が響いた。
○○が顔を上げると、目の前に長髪が気を失って倒れていた。その傍らにはメロンが一つ、転がっている。
見舞いの品として、○○が持って来た果物籠に入っていたものと同じものだ。
どこから飛んで来たのかと視線を漂わせると、日をあびた銀髪を光らせながら去っていく後ろ姿が屋上に見えた。