第16章 【第十五訓】美味しいものほど当たると恐い話
果物屋で果物籠を買い求め、大江戸病院に向かった。
○○は一足先に退院し、まだ入院中のみんなの見舞いに行く途中だった。
同室だった面々はなぜか、病院で全員負傷し、入院延長を余儀なくされていた。
「お見舞いに来たよ」
「○○!」
病室に入ると、嬉々とした神楽の声が聞こえた。
○○は神楽の元に果物籠を置くと、その横に腰掛けた。
「○○さん、みんな明日には退院出来ることになりましたよ」
「本当に? よかった!」
○○は明るい声を上げた。
これで、また万事屋としてみんなで活動が再開出来る。
「俺以外のみんな、な」
明るい雰囲気の中、一人だけ暗い影を漂わせた長谷川が呟いた。
長谷川は元からケガの度合いが違い、さらにケガを重ねたため、まだ退院の日は遠いようだ。
「いいじゃないですか。長谷川さん、退院しても職ないんだし」
「よくないわ!」
長谷川は求人広告を片手に声を上げた。
*
病院の正面玄関を出ると、門までの一本道が続いている。
道の両側にはたくさんの木々が植わっている。
その木の下に設置されたベンチの一つに、頭と足に包帯を巻いたロン毛の男が座っていた。
彼はベンチに腰掛け、瞑想しているようだった。
「桂!?」
思わず声を上げると彼は目を開けた。
○○の姿を見ると彼は顔一面に喜色を浮かべた。
「○○殿!」
桂は立ち上がると笑顔を向けて手を振って来た。片足をかばうように、たどたどしい足取りで近づいて来る。
先日はこんなケガをしていただろうかと、○○は疑問に思う。今ならば、この男を逮捕するのは容易だろう。
桂は○○の元へとたどり着くと、表情を引き締めた。