第16章 【第十五訓】美味しいものほど当たると恐い話
「来てほしいなどと、決して俺の言葉ではないぞ! 俺はそんな女々しいことを言う侍ではない! なァ、そう思うだろう? ○○殿!」
○○は首を捻る。
桂のことなどわからない。だが、桂のことはわからなくても、○○には一つだけわかることがある。
「アンタがどんな侍かは知らないけど、銀さんはそんな女々しいことを言う人じゃない」
銀時が自分を江戸に呼んだなど、そんなことは絶対にありはしない。
「あ、あんた……!?」
その呼ばれように桂は床に膝をついて嘆きだした。
「○○殿……俺が嫌いになったのか? さっきも顔を見て逃げ出したり……。昔は小太郎小太郎と、あんなに懐いて笑顔を向けてくれていたのに……」
桂にくっついている謎の生物が『元気だせよ』と書かれたボードを出し、桂の肩に手を置いている。
「いや、懐いてねーぞ」
銀時は表情のない顔で、桂の頭に言葉を降らせた。
桂を置き去りにし、銀時は○○の背中を押して病室の中へと戻った。扉を閉める。
「銀さん……」
○○は桂に遭遇した時から気になっていたことを銀時に尋ねた。
「私、攘夷志士?」
銀時は目を丸くした。
銀時もかつて攘夷戦争に参加していたと、新八から聞いている。
そして、桂。あの男は、今でも攘夷を決行しようとしている過激攘夷志士だ。
自分は、そんな彼等と知り合いである。
それに、自分の剣術。
そんじょそこらの女が剣術に長けているなど、ありえないのではないか。
何か特別な理由が、たとえば幕府を転覆させようと目論見、修行をしていたというのならば……
「何言ってんだ。お前はただの茶屋娘だ。今も、昔も」
銀時はベッドに仰向けに寝転がり、天井を仰ぎ見た。