第4章 自分の大切な人を心配させないように
「俺は」
駐屯兵団の兵士に事情を説明しに行こうとするアリアの背中に、ぽつりと声が落とされた。
振り返ると、まだ赤い顔をしているハンネスがなにを思っているのか、目を細めていた。
「俺はタダ飯食らいとか、税金泥棒とか、そう呼ばれていても構わねぇって思ってるんだ」
カタン、と軽い音を立てて、酒瓶が地面に置かれた。
「俺たちが働かないっつーことは、つまりそれだけ街が平和だってことだろ?」
ハンネスはミカサとアルミンを見ていた目線をアリアに向けた。
彼は苦しむように顔を歪める。
「ありがとな、アリア。お前たちのおかげで俺たちはこうして平和に暮らせてる。外の巨人に怯えることなくな」
ハンネスはなんと声をかけようか迷っていたのかもしれない。
壁外調査から戻ってきたアリアの姿を見て。
まるで自分の子どものようにかわいがっていた少女が血にまみれ、絶望を顔に貼りつけ帰ってきたのを見て。
「……こちらこそありがとう」
ここに帰ってきてから、アリアは色んな人の優しさに触れた。
その度に、まだ冷え固まっている心が少しずつぬくもっていく。
お礼を言うアリアに、ハンネスは目を瞬かせた。
「ハンネスさんがいてくれるおかげでわたしは調査兵団に入れた。やっぱり、アルミンを残しておくのはちょっと不安だったから」
にこりと、アリアは微笑んだ。
「初めての壁外調査は怖かったし、仲間も大勢死んだ。それでもアルミンが、わたしの大切な人たちがここにいてくれるだけで、わたしは頑張れるの。だから、ありがとう」
ハンネスの手が伸びて、アリアの頭に乗った。
「死ぬなよ、アリア」