第4章 自分の大切な人を心配させないように
「止めなくてもいいかって聞かれてもなぁ、あんなの子ども同士のじゃれあいだろう? それにアリアだって止める気がないからここで見てるんだろうが」
「ははっ、まぁたしかにそうですね。度が過ぎたら止めますけど……」
「おいあんたら! なんとかしてくれ!!」
微笑ましいものを見るかのようにエレンたちといじめっ子たちの壮絶な戦いを見ていたアリアとハンネスに悲鳴にも似た声がかかった。
声の主は野菜売りの店の店主だ。
「ほっときゃそのうち腹空かして勝手に帰るさ」
ちょうどエレンたちが暴れ回っているのはその店の隣。
ミカサによって吹っ飛ばされたいじめっ子や、のしかかられたエレンが店に突っ込んでくるせいで商品が至る所に散らばっていた。
「エレン、そろそろ帰ろう。また喧嘩したことがバレたら怒られる」
「そ、そうだよ、エレン、せっかく姉さんが帰ってきてるんだから」
「うるせぇ!」
いじめっ子たちは十分痛めつけられた。(ほとんどがミカサのおかげで)
そろそろ潮時だと思ったのだろう、蹴り飛ばしたいじめっ子の頭を踏みながらミカサが言う。序盤でエレンに弾かれてしまったアルミンも、ミカサの言葉に頷く。
けれど、エレンの勢いが収まることはなかった。
まだ立ち上がるいじめっ子たちに飽きることなく拳を振った。
ピーッ!
そのとき、子どもたちの喧嘩も相まってさらに賑やかだった通りに不似合いな甲高い音が響いた。
「なにをしているんだね!!」
通りの向こうから走ってきたのはハンネスの上司である駐屯兵団の1人。
騒ぎを聞きつけてここまで来たらしい。手には笛が握られている。
「げっ!」
大人の、偉そうな人の存在に真っ先に気づいたのはいじめっ子たちだった。
周りを見渡し、もみくちゃになっているエレンを跳ね除けて、急いで駆け出した。
「逃げるぞ、おまえら!」
なによりもまず怒られたくない彼らは大慌てで逃げていく。
「待て!!」
その後を懲りずにエレンが追いかけた。
「エレン!」
「こら! 待ちなさい!」
エレンを追おうとしたミカサだったが、駐屯兵団の兵士に押さえられ、ただ遠くなっていくエレンの後ろ姿を見ていることしかできなかった。