第4章 自分の大切な人を心配させないように
アリアの悩ましげな声にアルミンは苦笑した。
5歳も歳の離れている子どもを殴るのはいじめっ子だったとしてもフェアではない気がする。
「しょうがない。そばで見守っとくから、ちゃんとアルミンもゲンコツ落とすんだよ!」
「う、うん! がんばる!」
自分のこのひ弱な拳が果たしていじめっ子たちに効くのかどうか。
不安だったが、アリアが近くにいてくれる。見守ってくれている。そのことがアルミンの心に勇気を与えた。
「あ! あれは!」
目線を前へ向けたアリアは声を出す。
アルミンもその目線の先を辿れば、さっきまで一緒にいた茶髪と黒髪の少年少女が3人のいじめっ子たちと争っているのが見えた。
「エレン!!」
すでにかなりボロボロのエレンだったがそれでも拳を握りしめていた。再びいじめっ子を殴ろうとしたエレンだったが、それを慌ててアルミンが後ろから羽交い締めにした。
「もういいんだ、パンのことは!」
「離せ!! きっちり弁償させてやる!!」
しかしアルミンの声は届かなかったのか、エレンは無理矢理ほどき、無様にミカサに押さえられているいじめっ子に飛びかかった。
「ハンネスさん、いいんですか? 止めなくて」
その喧嘩に飛び入りしたい気持ちを抑えて、アリアはすぐ近くで酒を飲んでいる顔見知りに声をかけた。
「お! アリアじゃねぇか! 元気だったか? 調査兵団に入ったんだってな?」
兵服を身にまとう男──ハンネスはアリアの姿を見ると嬉しそうに笑った。
彼の着ているジャケットには薔薇の刺繍が施されており、駐屯兵団だということがわかる。
周りには同僚もいて、彼らものんきにアリアに手を振っていた。
「おかげさまで。ハンネスさんたちもお元気そうでなによりです」
よほど酒を飲んでいたのか、ちょっと彼らが動くたびに酒臭さがぷんと匂ってきた。
一応昼間で、まだ勤務時間のはずなのだが、あまりすることがないため暇を持て余しているのだろう。
いつ見ても、ハンネスたちはこんな調子だった。