第4章 自分の大切な人を心配させないように
「姉さん! ミカサ!!」
その後もアリアとミカサは様々な話に花を咲かせ、のんびりとした時間を楽しんでいた。
そんな穏やかな空気を切り裂くようにアルミンの声が家の中に響き渡る。
「アルミン、どうしたの?」
「エ、エレンが――」
「エレンがなに!?」
かなりの距離を走ってきたのか、荒い息で言葉を絞り出すアルミンに、エレンという単語に反応したミカサが身を乗り出した。
そこにさっきまでの乙女のミカサはいない。
「れ、例のいじめっ子に、ぼくのパンを取られちゃって、それを取り返そうと――」
アルミンからそれだけ聞き出すと、ミカサは綺麗になったマフラーを引っ掴んで外へ飛び出した。
「ぼ、ぼくはもういいって言ったんだけど……」
「エレンはそれで納得して引き下がらないよ」
「そ、そうだけど……でも」
エレンと外に行ったアルミンはついでに数日分のパンを買おうと思ったのだろう。
だがそれに目をつけたいじめっ子たちが憂さ晴らしにパンを奪ったというわけだ。
アリアはため息をついた。
「パンを取り返しに行こうか」
「え、でももう食べちゃったと思うよ。あいつら、そういうことするもん」
よし、と立ち上がった姉を見上げてアルミンは弱々しく首を振った。
「ま、それはそれとして。食べてても食べてなくても1発はぶん殴らないと! あとでまた姉さんがパン買ってあげるからさ」
幸い、アリアの懐はそれなりに潤っている。パンくらいを買うお金はある。
訓練兵団での給料と調査兵団での給料にまだ手をつけていなかったためだ。
「アルミン、エレンの場所に案内して」
カルラから預かっている家の鍵を片手に、アリアはアルミンと共に家を出た。
賑わいを見せる通りを抜け、店の呼び込みをしている人たちの声を聞き流し、アリアはアルミンの背中を追いかけていた。
「あ、でもさアルミン」
すぐにでもエレンたちを見つけられるように辺りを見渡していたアリアはあることに思い当たった。
アルミンは「なに?」と言うように振り返る。
「さすがにわたしが年下を殴るのは大人気ないよね……」