第4章 自分の大切な人を心配させないように
「あれ、アルミンとエレンは?」
急に声のボリュームが下がった気がしてアリアが家の中を見渡すと、アルミンたちがいた場所には本だけが転がっていた。
話に夢中になっている間に外に行ってしまったのだろうか。
「ま、いっか。それでミカサ。ミカサの好きな人ってだれなの?」
繕いかけのマフラーをテーブルに置き、アリアはキラキラとした目でミカサを見た。
彼女はそわそわと目を動かしていたが、やがて小さな小さな声で言った。
「エ、エレン」
ほう! とアリアの目が大きくなった。
予想外かと聞かれればそうではない。
なんとなく予感はあったが、ミカサはエレンのことを手のかかる弟と思っているとばっかり思っていた。どちらかといえばエレンのほうがミカサのことを気にしているような……。
「エレンには秘密にしていてね」
「もちろんだよ! だれにも言わない。2人だけの秘密だよ」
声を潜めて指切りをする。
2人だけの秘密。
その言葉の響きがくすぐったくて、ミカサはかすかに口角を上げた。
「アリアの言ってた人の話もして。どんな人なの?」
話題を変える意味も込めてミカサが聞き返すと、アリアは少し考えたあと柔らかく笑った。
「口が悪くて、無愛想なんだけど、すごく美しく空を飛ぶ人なの。風を切って、とっても速く進むの。きっと誤解されがちな人だとは思うけど、でも優しい人」
目を細めて、アリアは彼のことを思い出す。
その表情はやはりミカサが昨日見たものだった。人は好きな人を思い出すだけで、こんなにも優しく、花が咲いたように笑うのだと驚く。
同時に、自分もエレンのことを思い出しているときはこんな顔をしているのかと思うと、妙に気恥ずかしかった。
「いつか会えるかな」
ぽそりとミカサは呟く。
「彼も調査兵団だから、見る機会があると思うよ」
アリアの好きな人。きっと背が高くて、とてもかっこいい人なのだろう。会ってみたい。
期待に胸を膨らますミカサは5年後、その男と会うことになるのだが、それはまた後の話。