第4章 自分の大切な人を心配させないように
「な、内緒にしてほしいんだけどね。……たぶん、ミカサの言う通りだよ」
なんだかはっきりしない答え方にミカサは首を傾げる。
「どうしてたぶんなの?」
じっとこちらを見て聞き耳を立てている男子2人に聞こえないようにミカサも声をひそめる。
ミカサも女の子。好きな人を周りに知られたくない気持ちはわかる。
「だ、だって、その人のこと全然知らないし、話もあんまりしたことないし、それなのに好きだって言うのは変じゃない?」
実の姉のようにアリアを慕っているエレンは本を閉じて立ち上がった。ギョッとしてアルミンは思わずエレンの腕を掴んだ。
「わたしはそうは思わない」
「そ、そうかなぁ……」
初恋の相手でもあるアリアに好きな人ができたなんて、エレンには許されざることなのだ。なんとしてでも相手を聞き出さなければ。
意気込むエレンに、アルミンは必死にそれを止めようとする。
たしかに弟として姉に好きな人ができたと言うのは寂しいが、なによりもまずアリアの幸せを一番に考えているアルミンは、ぽぽっと頬を赤らめる姉にエレンを突っ込ませるのは得策ではないことくらいは予想がついていた。
わちゃわちゃとそんな攻防戦が繰り広げられているなど考えもしていないアリアとミカサの恋の話はまだ続く。
「カルラおばさんが言ってた。その人と喋ることができたり、その人のことを考えると幸せな気持ちになれたらそれは恋だって」
「ふ、深い……!」
「わたしも……そう、だから、アリアの気持ちがよくわかる」
エレンに引きずられそうになっていたアルミンは不意にエレンの力が抜けたことによって尻もちをついた。
いや、そんなことはどうでもいい。
アルミンがエレンを見ると、彼はミカサのことを信じられないものを見るかのような目で見つめていたのだ。
「ミカサも好きな人がいるの?」
アリアの問いかけに、ミカサはちょっと照れくさそうに頷いた。
その頷きを見たエレンはよろよろと数歩後ずさった。よほどミカサに好きな人がいることがショックなのか。
とにかく、エレンに力が入っていない隙にアルミンはエレンを家から引き摺り出すことに成功した。
これでアリアたちも気兼ねなく話せるだろう。