第4章 自分の大切な人を心配させないように
翌日、ゆったりと朝寝坊を楽しんだアリアはイェーガー家にて、ミカサと一緒に会話に花を咲かせていた。と言っても、ミカサは口下手なため、もっぱらアリアが話してはいたが。
アルミンとエレンはすぐ隣で本を読みながら楽しそうに喋っていた。
なにやらアリアとミカサには秘密の話らしく、なにを読んでいるのかと聞いても誤魔化されるだけだった。話の内容から外の世界についてのことなのだろうけど。
「アリア」
ミカサは自分の大切なマフラーを繕ってくれているアリアにこそっと声をかけた。
日々厳しい訓練に耐えているのであろう筋張った指先はミカサの声によって動きを止めた。訓練兵団に行く前はもっと細く、すらりとしていて色も白かったが、この3年ですっかり変わってしまった。
「どうしたの、ミカサ」
けれど、縫い物をする指の動きも、ミカサが声を掛ければすぐに優しく返事をしてくれるところも、なにも変わらない。
珍しくドキドキと動く心臓の音を聞きながらミカサは口を開いた。
「アリアがプレゼントを渡そうとしてる人のこと、アリアは好きなの?」
ぴた、と今度はアリアの体まで止まってしまった。
楽しげに自分たちの世界に入り込み、女子2人の会話など聞いてもいなかったはずの男子2人が顔を上げる。
ミカサは気づいていたのである。
「昨日、アリアがその人のことを話しているのを見て、とても……優しい目をしていたから」
どんなプレゼントがいいのだろうと頭を悩まし、おそらくその人のことを思い出しているであろうアリアの横顔はミカサが見たことのない表情をしていた。
だから、聞いたのだ。知りたかったから、聞いた。
一方で突然話題を振られたアリアは「あー」とか「うー」とか唸ったあと、ちらりとアルミンとエレンのほうを見て、ミカサの耳元に口を寄せた。