第4章 自分の大切な人を心配させないように
「大丈夫? うなされてたよ」
隣の部屋で寝ている祖父を起こさないように声を潜める。
「ご、ごめんね、起こしちゃった?」
暗闇でもわかるほど、アリアは眉を八の字にしていた。
アルミンは姉のそばに近寄り、そっと抱きしめる。
「アルミン?」
「姉さんは、ぼくが泣いてるとこうやって抱きしめて、くれたから」
恥ずかしくて、ボソボソと早口になってしまう。
それでもアリアは嬉しそうにアルミンを抱きしめ返した。
「ありがとう」
アリアはアルミンの肩に顔を埋めた。
じんわりと高い体温がアリアの強ばった体を溶かしていく。
夢の名残はまだ消えないが、さっきよりも数倍安心できた。
「姉さんね、怖い夢を見ちゃったの」
「うん」
「まだ眠れそうにないから、もう少しこのままでいい?」
「もちろんだよ」
アルミンはなにも聞かなかった。
今日の昼、アリアと再会したときも余計な詮索はしてはならないと思った。
本当はあの壁外調査でなにがあったのか。アリアは一体なにを見たのか。なにが、彼女をあんな表情にしてしまったのか。知りたかった。深くまで知りたかった。
だが、それは踏み込んではいけないことなのだろう。
「じゃあ眠たくなるまでエレンのおもしろい話をしてあげる」
「ふふっ、お昼もたくさん聞いたよ?」
「姉さんは知らないだろうけど、あれはまだほんのちょっとのことなんだ」
「えぇ〜! そうなの?」
「うん!」
アリアはどこか本心を隠す癖があった。
きっと本人は気づいていないだろうが、責任感の強さ故なのか、弱音を人の前で吐くことは一度もない。
「まずはね」
それでも、もう少し大人になって、アリアの気持ちがわかるようになれば、いつかきっと話してくれるはずだ。
そのときを待とう。
(……そう、だったのか)
目の前で涙に腫れた目をしたアリアを見ながらアルミンは思う。
アルミンがアリアの心からの叫びを聞いた日に、彼女は再び大切な人を亡くしてしまっていた。
「わたしはもう、疲れたの」
そこは、肌寒い風の吹く、壁の上だった。