第4章 自分の大切な人を心配させないように
「やっぱりプレゼントとして喜ばれるものはハンカチとかの実用品とかがいいんじゃないかしら」
「実用品」
カルラの言う通り、ハンカチはいくらあっても使える。
だがリヴァイにハンカチをプレゼントしても「またか」みたいな顔をされそうだ。
「あとはねぇ……私は紅茶とかをもらったら嬉しいわ」
「紅茶?」
首を傾げると、カルラは頷いた。
「高価だからそんなにたくさん買えないけど、家事とかの間に飲むと心が安らぐの。その人が紅茶嫌いじゃなかったらきっと喜ぶよ」
「紅茶かぁ」
専門店で売られているのはよく見かけるが、値段を見るのが怖くてお店に入ったことはない。
たしか調査兵団本部の近くにも紅茶専門店があったはず。
「戻ったら聞いてみます」
具体的なプレゼントが思い浮かんできた。
もしこれで紅茶が大嫌いと言われてしまったらハンカチか万年筆を買おう。
「なぁ、話は終わった?」
くいくいと服を引っ張られ見下ろすと、エレンが期待に満ちた眼差しでアリアを見上げていた。
そろそろ大人同士の会話がつまらなくなったらしい。
「今度はおれたちにもお話聞かせて!」
「お話?」
「うん! 調査兵団のことが聞きたい!!」
「エレン」
カルラの厳しい声がエレンにかかる。
肩を揺らしてエレンは母を見た。
カルラはエレンが調査兵団に興味を持つことにあまり賛成していない。もしアリアが親だったとしても同じ気持ちになるだろう。
しかし、カルラの声にはそれ以外の感情も含まれていた。
「あんまり根掘り葉掘り聞くんじゃないよ」
カルラはアリアを気遣ってくれている。
その優しさにアリアは微笑んだ。
「大丈夫だよ、エレン。たくさんお話しよっか」
もう、引きずらないと決めたのだ。
忘れるわけではない。気持ちに蓋をするわけでもない。
あの日感じたすべてと共に生きていくと決めたから。