第2章 夢を見る
ガスを蒸す音。巨人の模型のうなじを削ぐ音。歓声や悲鳴。
様々な音が響く訓練場。
エルヴィンは空を飛び回る彼らを見ながらアリアに声をかけた。
「今できるなら君の立体機動を見てみたい。……どうかな?」
どうかな、と言われて断れるはずもない。
それにこれから上司になる予定の人物に自分の腕前を披露できるのは嬉しいことだ。
アリアは深く頷いた。
「ぜひ!」
* * *
立体機動装置を身につけ、軽く準備体操をしたアリアはトリガーの動作確認をした後、息を吐いた。
巨人の模型は同期たちが動かしてくれる。
最後にアリアが着地する森の奥にはエルヴィンとハンジが立っている。
緊張はするが、高揚感もたしかにある。立体機動の訓練を行う前の感覚と同じだ。
初めて空を飛んだとき、驚くほど体が軽く、腹の底から喜びが湧いた。その喜びは何度飛んでもいつも湧いてきた。
「アリア・アルレルト、進発します」
アリアのいる場所からハッキリとした声が聞こえた。
パシュッ、とワイヤーが放出される音、ガスを蒸かし、ワイヤーが巻き取られる音。それらが遠くで響き近づいてくる。
「アリアは立体機動もなかなかの腕だと聞いてるけど……どう思う?」
「どれだけ訓練で鍛えられたとしても、本番でその動きができなければ意味はない。訓練兵団で優れた成績を残しても巨人を前にして動けなくなり、食われた新兵を私は何度も見た」
「……つまり?」
「……彼女がどんな飛び方をするのか楽しみだよ」
エルヴィンの言うことも一理ある。ハンジだって同じような人を何度も見てきた。壁外に出る前に話していた友が、翌日には肉片になっていることなど日常茶飯事だ。
「私も楽しみだよ」
エルヴィンとハンジの視界の端に鮮やかな金髪が見えた。