第2章 夢を見る
翼が生えているようだ、とエルヴィンは思った。
重力など感じさせない身軽さで空を舞う姿。
三つ編みにされた金髪がなびき、太陽の光に当てられてきらりきらりと煌めく。
巨人の模型が現れても決して動じず、ただそれを見て正確にうなじを削ぎ落としていく。
「……すごい」
隣でハンジがぽつりと呟く。
うなじは深くまで抉られていて、ブレが一切なかった。
と、アリアの目の前に模型が現れた。模型と正面衝突する直前、ぐっとアリアの上体が動いた。
頭を前に下げ、上下に反転した彼女はすぐさまアンカーを巨人の足元に噴射し、ギチチッとそれを巻く。逆立ち状態でアリアはブレードを握りしめた。
あと少し下に行けば頭が地面にこすれ、削れてしまう。
目を見張るエルヴィンとハンジの前で、アリアは逆さまのまま、模型の足元を削いだ。あれが模型ではなく本物なら、きっと今、歩行能力をなくし、地面に膝をついていることだろう。
両足を削げたことを視認したアリアはそのままうなじへと目標を定めた。
「目の前に巨人が現れた状況でうなじを狙えば、きっと掴まれて食われていただろうな」
エルヴィンのこぼした言葉にハンジが頷く。
「だからすぐに足に標準を合わせて自分の身の安全を確保。確実にうなじを削ぐための最善策だ」
模型を模型と思わず、常に壁外に出たときのことを考え訓練している。
アリアの判断はそれがハッキリとわかるものだった。
最後の1体の巨人を倒し、アリアは森から飛び出した。
身を丸め、ガスで地面へ衝突する勢いを殺し、地をごろごろっと転がる。少しだけ頬に土のつけたアリアはすぐに立ち上がり、ブレードをしまった。
「い、いかがでしたか?」
どこか緊張したように聞く。
エルヴィンとハンジは目を合わせ、互いに口元を緩めた。
「素晴らしいの一言だ」
エルヴィンは自分の手を差し出した。それを見たアリアは一瞬息を飲み、すぐにその手を握り返した。
「君の入団を心から期待する」
「あ、ありがとうございます!」
頬を赤く染めたアリアは心底嬉しそうに顔をくしゃくしゃにさせた。