第2章 夢を見る
左胸に拳を当て、オリヴィアはつっかえながら言った。
「だ、第98期訓練兵団所属、オリヴィア・スカーレットです。お2人のお噂はかねがね……お会いできて光栄です」
「……スカーレット……人違いだったら申し訳ないが、レオ・スカーレットの妹かい?」
オリヴィアのファミリーネームを聞いたエルヴィンはしばらく悩んだ後、躊躇いがちに聞いた。
レオ・スカーレット。
それはオリヴィアの兄の名前だった。
かすかに悲しそうな色が彼女の瞳に浮かぶ。
「……はい。レオ・スカーレットはあたしの兄です。調査兵団として戦い、4年前に殉職しました」
オリヴィアから兄のことは聞いていた。
兄を持つオリヴィアと弟を持つアリア。互いに兄弟を持つ同士、話は弾んだ。
ちょうど訓練兵団へ入団した初日のことだっただろうか。
偶然近くにいたオリヴィアに話しかけ、どの兵団に所属したいか、どこ出身か、好きな食べ物は嫌いな食べ物は……など、とにかく喋り倒した。
そして家族の話になったとき、オリヴィアがこぼしたのだ。
『あたしには兄がいたんだけど調査兵団で……1年前に死んだの。兄さんは壁なんか取り払った世界で暮らしたいっていつも言ってた。だからあたしも調査兵団に入って、あたしが兄さんの願いを叶えるの』
意志のこもった緑の瞳にアリアは頷くことしかできなかった。
巨人の恐ろしさはきっとわかっているはずなのに、それでもオリヴィアは調査兵団に入ることを望んだ。
その強い想いにアリアは心を動かされた。
「私もハンジも彼と同じ班になったことがある。レオの判断でいつも助けられた。君のお兄さんは素晴らしい調査兵だったよ」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、きっと兄も喜びます」
「訓練中に呼び止めてすまなかった。ありがとう」
「調査兵団に来たときはぜひ私とも話をしよう! レオは私の巨人の話をいつも聞いてくれていたんだ。そのときのことを君とも話したい」
「もちろんです、ハンジさん」
オリヴィアはにこっと笑うと、アリアに手を振り、同期の元へ戻って行った。
「良い仲間だね」
「はい。本当に」