第4章 自分の大切な人を心配させないように
ガスの噴出量、重心のかけ方、それらを意識すればきっと落ちることはない、はず。そう願いたい。
全神経を集中させながらアリアは飛ぶ。
すぐ後ろでリヴァイが飛んでいる音が聞こえてきた。
かなり慎重になりながらも、なんとか地に足をつけることができたのは飛び始めて30分は経ったときだった。
「お、終わったあぁああ……」
ドッと溢れてきた疲労感に脱力し、アリアはその場に崩れ落ちた。
隣に着地したリヴァイは呆れたようにアリアを見下ろす。
落下することもなかったし、大きな失敗もなかった。とにかく無事でよかった。
「本当にありがとうございます」
アリアは腕を組んでいるリヴァイを見上げ、へらりと笑った。
集中しすぎて表情筋まで引き締めていたらしい。口角をあげようとしたが強ばった。
「次からは整備を怠らないことだな」
「はい。気をつけます」
リヴァイはグリップをしまい、アリアに背を向けた。
もう訓練を終えるのだろうか。
「あ、あの、リヴァイさん!」
男性にしては小柄な背中に声をかける。
無視されるかと思ったが、彼は律儀に止まって後ろを振り返ってくれた。
黙ってアリアの言葉を待つ。
「今度、助けていただいたお礼をさせてください。リヴァイさんはわたしの命の恩人ですから!」
正直に言うと、どうしてそんなことを口走ったのかはよくわからない。このまま「ありがとうございました」で終わってもよかった。
だが、ここで終わってしまえばもうリヴァイと関わる機会はないのではないかと、そう思ったのだ。
そして、それは嫌だとも思った。
「……わかった」
しばらくの沈黙の後、リヴァイは頷いた。
「話はそれだけか?」
「え、あ、はい! ありがとうございます!」
何度言ったか覚えていないありがとうをもう一度言い、アリアは腰を上げた。
黒髪を揺らし、去っていくリヴァイ。
その後ろ姿を見つめながら、アリアは固まった。
「お、お礼って……どんなことすればいいのかな」