第2章 夢を見る
外に出てみたいとか、調査兵団に憧れていたとか、自分自身のことを考えて入団していった人間を今までたくさん見てきた。
自分の命を賭けるのだから、自分の考えに従うことは正しい。だからこそ、アリアの考えはエルヴィンとハンジにとっては珍しかった。
自分の命を賭けるのに、その賭ける理由が弟の、他人の願いを叶えるためのものなのだ。
ハンジは笑みを消し、じっとアリアを見つめる。
自分以外のために自分を犠牲にできるほど人間は上手くできてはいない。壁の外に出て、巨人の恐怖を目の当たりにし、仲間の死体を見て、それでも尚前へ進むにはなによりも強い意志が必要だ。
そしてそれは“人のため”でどうにかできるものではない。
(これは……)
エルヴィンと訓練について話しているアリアの横顔を眺め、ハンジは内心息を吐いた。
(簡単に心が折れてしまうかもしれないね……)
ハンジが考えていることなど露知らず、アリアは立体機動で飛び回る同期たちを見上げていた。
訓練の様子を見ていたエルヴィンが感心したように声を出す。
「今期の訓練兵は皆動きが良い。全員調査兵団に入ってくれたら嬉しいんだが」
「ふふっ、ありがとうございます。……あ!」
アリアが訓練場を見渡したとき、1人の少女を手で指した。
「彼女も調査兵団へ入団しようとしている同期です。呼びましょうか?」
「あぁ、ぜひ。話がしてみたい」
ハンジもエルヴィンの隣に並び、アリアの視線の先を追った。
そこには今から立体機動を始めようとしていた、赤色の髪の少女がいた。
豊かな髪を1つに結んだ少女は「オリヴィア!」というアリアの呼びかけに驚いたようにこちらを見た。
彼女の周りにいた同期たちもエルヴィンとハンジを見て、ざわざわっと騒がしくなる。
わずかに頬を赤くし、少女はエルヴィンたちのほうへ駆けて来た。