第4章 自分の大切な人を心配させないように
「すみません、ハンジさん、モブリットさん。わたし、これから実家へ顔を出そうと思っていて……」
申し訳なさそうに眉を下げるアリアにハンジは慌てたように言った。
「いいのいいの。そっか、アリアはたしか今日休息日を取っていたんだっけ。今日はご家族といっしょにゆっくりするといいよ」
「すみません」
いくらハンジがそう言ってくれても、やはり誘いを断るのは心が痛む。
「昼食はまたの機会だね」
ハンジの言葉にアリアはこくっと頷いた。
「ありがとうございます」
では、とアリアはハンジとモブリットに会釈をし、2人に背を向けた。
たぶん今からエルヴィンに外出届を貰いに行くのだろう。
「1週間前の顔つきとはまるで違いますね」
その後ろ姿を見守るハンジにモブリットは呟いた。
それに「あぁ」とハンジは目を細める。
「這いつくばってでも、生きる道を選んでくれてよかった。エルヴィンとも上手く話せたようだし」
生きることを手放したアリアの顔とはまったく違う。感情が戻っていた。
エルヴィンにアリアと話してやれ、と伝えたのはハンジだったが、正直に言うとエルヴィンが上手にアリアの背中を押せるような言葉を伝えられるかは不安だった。
かぶりを振り、ハンジとモブリットは歩き出す。
「エルヴィンは慎重に見えてズカズカ踏み込んでくることあるしね」
はーあ、とため息と共に言葉を吐き出すハンジ。その背後を見てモブリットは表情を固めた。
「だれがなんだって?」
「うぉっ!!!」
「エルヴィン分隊長、お疲れ様です」
素っ頓狂な声を上げながらハンジは振り返る。そこにはいつの間にか音もなく近づいてきていたエルヴィンがいた。
驚きで荒ぶる心臓を押さえながらエルヴィンを見たハンジは「おっ」と片眉をあげた。