第4章 自分の大切な人を心配させないように
「重たくないかい?」
どこか心配そうに振り返るランゲにアリアはニコッと笑った。
「このくらい軽いですよ!」
「……そうか」
また、ランゲは微笑む。淑やかに、静かに。
アリアのランゲへの第一印象は快活な人、だった。
ハキハキした喋り方に、たまに悪くなる口調。気に入らないことがあれば、たとえその相手が目上だろうと言葉にする。そして、なにより笑い方が豪快だった。
大きく口を開けて笑う。声を出して笑う。その笑い声を聞くだけで気分が明るくなった。
「ランゲさんはこれからどうされるんですか?」
「とりあえず実家に帰って……そうだなぁ、こんななりでも結婚してくれる人がいればその人と結婚して、静かに暮らすんじゃないか?」
右手右足と共に、あの快活さを落としてしまったようにアリアは見えてしまった。
「……お手紙、待ってます」
「利き手じゃないほうで書くから汚くて読めなくてもいいか?」
「はい。頑張って解読します!」
「解読って……」
きっと、ランゲは悔しいのだろう。
道半ばで調査兵団を離れることが。仲間を置いて自分だけ壁内にこもるのが、きっと、嫌なのだろう。
「わたし、ランゲさんの分まで巨人を倒します」
兵舎の外に出る。
あの壁外調査のときとは違い、眩しいくらいに太陽が照っていた。思わず目元に手をかざして日を遮る。
「無理のない程度に頼むよ? 文通相手がいなくなるのは寂しいからね」
「ほどほどに頑張ります」
「ふふ、あぁ、そうしてくれ」
門の外に馬車が見えてきた。
「……もうすぐ夏ですね」
季節は人の営みなど気にせず進んでいく。人が悲しみに沈んでいても、春は来る。草花は芽吹き、太陽が地を照らし、葉が枯れて雪が降る。
「あぁ」
そうして時が進んでいく。
「……短い間ですが、お世話になりました」
「あぁ」
「わたし、ランゲさんのことを絶対に忘れません」
「そうしてくれると嬉しいよ」
馬車の御者が馬車のドアを開ける。
アリアは車椅子から手を離し、ランゲの左手を握った。
「どうか、お元気で」
その一言に、ランゲは静かに頷いた。