第4章 自分の大切な人を心配させないように
「……今までよく頑張ってくれた。君の意志は私たちが引き継ぐ」
「はい。このような形で調査兵団を去ることになるとは……。少し心苦しいです」
アリアとナスヴェッターは並び、車椅子に座るランゲを見つめる。
先の壁外調査により、右手と右足を巨人に食われ、車椅子生活を余儀なくされたランゲは調査兵団から脱退することになった。歩くことさえできないのに、巨人と戦うことなど不可能だからだ。
「お世話になりました、エルヴィン分隊長」
今にも泣きそうな顔でランゲは笑った。
「調査兵団の活躍を祈っています」
エルヴィンはトン、と右拳を左胸に当て敬礼する。
ランゲもそれに合わせて左の拳を握りしめた。
「ナスヴェッター、アリア、短い間だったけどありがとう。……簡単に死ぬんじゃないよ」
ふっ、とランゲは視線をずらしてアリアとナスヴェッターを見る。ナスヴェッターは唇を噛み締め、俯いた。
「人類が自由を取り戻したら……また会いに行きます」
アリアが表情を引き締め言うと、ランゲは嬉しそうに微笑んだ。その微笑み方はアリアが初めて見るものだった。
「……馬車までお送りします」
「あぁ。よろしく」
大きなカバンを手にしたランゲにアリアが申し出ると、彼女は快く頷いてくれた。
兵舎の外にはランゲを家まで送り届ける馬車が来ているらしい。
「分隊長、ナスヴェッターさん、失礼します」
アリアは2人に会釈し、車椅子の取っ手を手にした。
両腕に力を込めて押す。
カタカタカタ、とタイヤが音を立てながら回った。