第3章 正しいと思う方を
「……アリア・アルレルト」
名前を呼ばれ、アリアは弾かれたように振り返った。
夜遅く、なかなか寝つけずにいたアリアはグリュックの顔でも見に行こうと厩舎に来ていた。
前回の壁外調査で助けられたとは言え、アリアは生き残ることができた。そのおかげか、イザベルの言っていた通り、グリュックとの壁がほんの少しだけ薄くなった気がしていた。
グリュックも気持ちよさそうに撫でられていたが、突然聞こえた声に警戒するように鼻を鳴らす。
「……リヴァイ、さん」
そこにいたのはリヴァイだった。
ランプを提げ、厩舎の出入口の柱にもたれかかっている。
「お前の名前だな?」
「は、はい」
グリュックを安心させるように声をかけ、アリアはリヴァイと向き合った。
柱から離れ、リヴァイが近づいてくる。アリアとそう身長は変わらないはずなのに、彼が歩くだけで圧を感じた。
緊張が全身を巡る。
「ハンカチを返しに来た。遅くなって悪かった」
片手に持っていたそれを、リヴァイは差し出した。
ぱちっ、とアリアは目を見開き、しばし黙る。やがて彼の握っているハンカチを自分のものだと認識し、慌てて受け取った。
「い、いえ。わざわざありがとうございます」
まさか返してくれるとは思わなかった。
しかも泥と血で汚れたであろうハンカチは新品のように真っ白だ。ほのかに良い香りがする。
「洗ってくれたんですか?」
恐る恐る聞くと、リヴァイは当然だと言うように頷いた。
「あんだけ汚しちまったんだ。洗うのは当たり前だろう」
布についた血を落とすのはかなり大変だ。しかしシミひとつ、シワひとつない。
器用で綺麗好きな人なのだろうか。
ハンカチをポケットにしまいながらチラッとリヴァイを盗み見る。近くで見れば見るほど、本当に顔が整っている。神様が真心をこめて作ったような美しさだ。