第2章 夢を見る
「君は対人格闘が特に優れていると」
エルヴィンの言葉にアリアは苦笑した。
あまり役には立たない上、サボる人の多い訓練で評価されても……という感情がある。しかし自分のことを良く評価されることは嬉しいのでなんだか複雑だ。
「弟がよくいじめられていて、それを守るために近所の子どもと喧嘩をしていたんです。恐らくそれのおかげで人よりも対人格闘ができるようになったのだと思います」
「弟がいるのか」
「はい。6つ年の離れた弟が1人います。わたしが調査兵団を目指そうと思ったのも弟が理由です」
3人の足が今度は立体機動の訓練場へと向かう。
「そう! 私はそれがずっと聞きたかったんだよ!」
アリアの隣を歩いていたハンジが大きな声を出す。
メガネを上にあげ、目をキラキラと輝かせながらアリアを見つめた。
「今までの首席はだいたいみんな憲兵団に行ってたんだよ。安全な後方勤務を目指してね。なのにどうしてアリアは調査兵団に入ろうと思ったの? 私が言うのもなんだけど、あれ、給料と比べて割に合わないよ」
「わたしの弟は壁の外の世界に憧れているんです。氷の大地、炎の水に砂の雪原……それを弟は見てみたいと言っていました」
本来なら壁の外の世界に興味を持つこと自体がタブーとされている。だが弟は、アルミンはそれをわかっていても壁の外について書かれた本を読んで目を輝かせている。
それを見ていて思うのだ。
「わたしが調査兵団に入って、巨人をすべて駆逐して、弟に外の世界を見せてあげたいって」
きっと彼はだれよりも喜んでくれるだろう。
本を読んでいるときと同じように、目を輝かせ、頬を紅潮させ、嬉しそうな笑顔を浮かべてくれるだろう。
「弟が喜んでくれるなら、わたしはなんでもできるんです」
穏やかに微笑むアリアに、エルヴィンとハンジはしばらく言葉を失った。