第3章 正しいと思う方を
意図を推し量るようにエルヴィンはアリアを横目で見る。
虚ろな目をしたアリアはだれに聞かせるわけでもなく、ぽつりぽつりと言葉を落としていく。
「わたしの親友はわたしの目の前で巨人に食われて死にました」
巨人に襲われかけたアリアを助けたときをエルヴィンは思い出した。
あのとき助けたアリアの全身には大量の血がついていた。蒸発しないそれは巨人のものではなく人間のものだった。
つまり、あれは……オリヴィアの血、だったのか。
「助けてと言われましたが、わたしは動けませんでした。怪我をしていたわけではありません。立体機動装置も故障などしていませんでした。ガスもブレードも十分ありました。しかしわたしは……親友の伸ばした手を掴みませんでした」
光のないアリアの目の中で暖炉の炎が踊る。
「……怖かった。彼女の助けを求める目が、周りから聞こえてくる断末魔が、怖くて怖くて、仕方なかったんです。親友を助けなきゃいけない。わたしならそれができる。……わかっていながら、わたしは動けなかった」
アリアの目が動いた。
闇よりも深い青の瞳がエルヴィンを見据えた。
「でも、親友が死んで、次はわたしの番だとわかったとき、わたしは…………安心しました」
巨人につままれ、その口の中を見たとき。
これから死ぬのだと理解したとき。
アリアは心から安堵した。
「死にたくはなかった。でも親友を見殺しにしたわたしは死ななければならないんです。わたしは、こんな罪を背負って生きていけない……。だから死ねるのだとわかって、嬉しかった」
アリアはエルヴィンから目を逸らし、自分の手の中に顔を埋めた。
だが結局、生き延びてしまった。
生き残った事実が恐ろしかった。
これから自分はオリヴィアの最期の冷たい目を思い出しながら生きていかなくてはいけないのか。
そのことに絶望した。