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雨上がりの空をあなたと〈進撃の巨人〉

第3章 正しいと思う方を



 深く頭を下げたアリアに、オリヴィアの母は涙を流しながら首を横に振った。


『あの子が兵士を目指すと言ったときから……覚悟はしていました』


 オリヴィアと同じ赤毛を結った母はアリアが手渡した手紙をそっと抱きしめた。
 隣で、ハンジが悔しそうに顔を歪めている。


『あの子の最期を見てくれて……ありがとう』


 違うんです。

 出かかった言葉は喉で止まる。
 感謝をされるようなことなどなにもしていない。なにもできなかった。


『…………ごめんなさい』


 アリアは消え入りそうな声で言った。



「アリア、ふらふらしてるけど大丈夫?」


 オリヴィアの家から出たアリアとハンジは街を歩いていた。
 さっきのことを思い出していたアリアは立ち止まったハンジを見上げる。

 ハンジはオリヴィアを預かっていた班の班長としてオリヴィアの家へ遺品を渡しに行っていたのだ。


「大丈夫、です。体は健康です」


 糸で吊ったように口角をあげたアリアにハンジはメガネをぐいっと頭の上に上げた。


「ご飯はちゃんと食べてる?」

「……いえ」

「どうして?」

「腹が空かないんです」


 壁外調査を終えた瞬間から。いや、オリヴィアが死んだ瞬間からアリアの時間は止まってしまった。

 腹は減らないし、無気力感だけがアリアの体にしがみついている。感情も壁外に置いてきてしまったようだ。
 アルミンやエレン、ミカサから送られてきた手紙も読んでいない。読む気力がなかった。


「…………そうか」


 ハンジはそれだけ言うとアリアに背を向けた。

 青白い顔をして、明らかに不健康なアリアを見て、ハンジは思った。
 彼女はまるで、死にたがっているようだ、と。

 このままなにも食べなければいずれ死ぬ。
 そうすればオリヴィアに会いに行ける。
 だが兵士になった以上、命を救われた以上、そう簡単に死ぬわけにはいかない。

 その葛藤が、ハンジにはわかりすぎた。



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