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雨上がりの空をあなたと〈進撃の巨人〉

第3章 正しいと思う方を



 だれもいない部屋にアリアは立ち尽くしていた。

 壁外調査から帰ったその日の夜。
 5人部屋だったアリアの部屋にはだれもいなかった。その部屋に帰ってくる者はいなかった。

 アリアは自分の両手を見下ろす。

 この手で何人もの遺体を運んだ。
 布に包まれていても、感触がはっきりと伝わってきた。まだ仄かに温もりを残す人もいた。

 その中に、オリヴィアはいない。あの泥の中、腐って、鳥や獣に食われ、骨になるのだろう。
 それを想像しただけで、胸を締めつけられるような痛みが襲った。


「…………はぁ」


 夕食は喉を通らなかった。不思議と腹は空かない。疲れすら感じない。ただ、言いようのない虚無感が体にまとわりついていた。

 風呂を終え、あとは眠るだけだ。眠れるかはわからないが。

 そして明日、遺品整理をしなければならない。
 幸い、オリヴィア以外の3人の荷物は彼女たちの班の人たちがやってくれる予定だ。
 だから、アリアがするのはオリヴィアのものだけ。

 ハンジ班の面々は壁外調査の処理やほかの兵士の遺品整理で忙しい、らしい。

 明日は大変な1日になりそうだ。

 湿った髪を拭き、アリアは自分のベッドに腰掛けた。
 明日の朝起きて、おはようと言ってくれる人はいない。いっしょに朝食を食べに行こうと言ってくれる人はいない。

 アリアはしばらくぼうっと自分のつま先を見ていたが、やがて部屋の灯りを消した。

 そろそろ寝よう。
 今日はもう、疲れた。

 アリアはベッドに寝転ぶと、静かに目を閉じた。

 鼻には血と雨の匂いがこびりつく。
 悲鳴と絶叫、人の潰れる音が耳から離れない。


「…………」


 ベッドの中でアリアは体を丸めた。



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