第3章 正しいと思う方を
音のした方を見て、アリアは全身から力が抜けた。
「アリア!!」
巨人に下半身を咥えられているオリヴィアがそこにいた。
泥まみれになっているオリヴィアは恐怖そのものを顔に浮かべ、身を振り、アリアに手を伸ばす。
「たすけて! おねがい!!」
その目は真っ直ぐにアリアを見ている。助けを求めている。
立ち上がらなければならない。
オリヴィアはまだ生きている。巨人を殺せばまだ助けられる。
「う、うぅううう……!」
口の端から獣のような唸り声がもれた。
絶望と、恐怖と、助けなければならないという意志がぶつかり合い、唸りとしてこぼれ落ちていく。
「し、死にたくない、よぉ……」
雨にまじって大粒の涙がオリヴィアの瞳から落ちた。
立体機動装置は壊れていない。ガスもブレードもある。体の痛みも気にするほどじゃない。
(戦わ、なきゃ……! 訓練通りにすれば、わたしは、オリヴィアは、たすかる、たすけなきゃたすけなきゃ、だって、だってこのままじゃオリヴィアは)
しかしアリアの体は動かない。
ブレードを握ることすらできない。
「アリア! アリア!!」
オリヴィアが、親友がわたしの名前を呼んでいる。それに応えなければ。
それでも体は動かない。地面に根が生えたように動かない。
辺りからはまだ兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。
巨人に食われた。それを見て戦意を喪失した。そのどちらかの兵士で溢れている。戦う意志のある人間はもういない。
今のアリアにも、もう戦う意志など、ない。
「うそ、いや、ねえ……うそでしょ、アリア……」
オリヴィアを咥えていた巨人の口が徐々に閉まっていく。
ギチチッ、と肉と骨が締められていく音にオリヴィアは小さな声で言った。
助けてくれると思った親友はこちらを見上げるだけで一向に動かない。
ちゃんと装備は身につけているのに。怪我だってしていないのに。
「…………なんで」
巨人の歯が腹にくい込んだ。
「なんでたすけてくれないの」
冷えきった声が、冷えきった瞳が、アリアを見下ろす。