第3章 正しいと思う方を
雨は嫌いだ。
嫌なことを思い出す。
両親が殺された日も途中から雨が降っていた。
巨人に体を持ち上げられ、アリアは虚ろな目で自分の未来を見ていた。
きっと自分は巨人に食われて死ぬ。
アリアの足元には大きく口を開ける巨人がいる。
両親は事故死だと祖父と弟には説明した。でもそれは違った。
あの日、あの夜、あの雨の日。両親は無謀にも壁の外に行こうとした。
ブレードが手から滑り落ちた。
この巨人の胃の中にはオリヴィアの下半身があるのだろう。ぽっきりと折られたオリヴィアの上半身は地面に転がっている。
結局壁の外には行けなかった。だれかに見つかって……その場で拷問されて殺された。
最初に母親からだった。父親の目の前で殺された。
雨粒がアリアのまつ毛を震わす。
生きる気などもうなかった。
次に父親だった。爪を1枚1枚剥がされて、許しを求めても彼らの手は止まらなかった。
父親は、最終的に手足を切り落とされた。
ふわっ、と体が無重力に放り出された。
巨人がアリアをつまむ指を離したのだ。
すべてがゆっくりになった。落ちていく体、呑気に開いた巨人の口。
「オリヴィア」
待ってて、今行くから。
あのあと、わたしはどうなったんだっけ。
両親を殺されて、彼らに見つかってそれから。それから地下街に売り飛ばされた。それで、それから、どうなったんだっけ。
そのときだけがまるでモヤがかかったように覚えていない。
きっと覚えておくのも辛いことだったのだろう。だから記憶に蓋をした。
ブーツの先が巨人の舌に触れた。
瞬間、どんっ、となにかがアリアを横からぶつかった。
巨人の肉を削ぐ音が聞こえた。
「アリア、無事か!」
ぶつかってきたなにかに守られるように抱きしめながら、アリアは地に投げ出される。
瞬きを繰り返すと、ようやくその“なにか”の正体がわかった。
「エルヴィン、分隊長」
「生きているな」
「分隊長、アリアは!?」
アリアを覗き込むエルヴィンの隣にナスヴェッターの顔が加わった。