第3章 正しいと思う方を
最初は小雨だったそれも、時間が経つにつれ雷雨となっていく。
アリアはマントのフードを深くかぶり、辺りを見渡した。
雨と雷の音のせいで自分が声を出したとしてもなにも聞こえない。視界も悪く、信煙弾があがっても雨でかき消されてしまう。
「 」
前を走っていたエルヴィンが振り返り、なにかを言う。
だがアリアには口が動いているようにしか見えなかった。
横殴りの雨はそのエルヴィンですら覆い隠そうとしていた。
隣を走るボックも気づけば見えなくなっていた。
前も後ろもわからなくなる。右も左も。自分が今どこを走っているのかさえ。
ただグリュックの温もりだけがアリアの折れそうな心を支えていた。
これだけ視界が悪ければ巨人の接近にも気づけない。
突然目の前に手が現れたりなんかすれば――
「……分隊長!?」
雨粒を避けるために一瞬目を瞑った。
次に目を開けたとき、アリアの周りに仲間はいなかった。
(はぐれた……? 巨人の足音の振動はないから……食われた、わけではないはず)
ドッ、と全身から冷や汗が噴き出した。
どこに進めばいいかわからない。ここはどこ? まだ巨人を1人で討伐したこともないのに。もし今、巨人が現れたら、わたしは……
息ができない。
開いた口に雨粒が飛び込んでくる。
「――アリア!!」
混乱と恐怖でぐらりと頭が揺れたとき、ガシッとだれかに腕を掴まれた。
喚きながら手を振り払おうとしたが、横を見たアリアはすんでのところで声を飲み込んだ。
「オリヴィア、なんで……」
同じようにフードをかぶってはいるが、隙間から見える瞳はアリアのよく知っているものだった。
アリアの呟くような小さな声は届かなかったのか、オリヴィアは雨音に負けないように声を張り上げた。
「ハンジ班とバラバラになったの! さっき、緑の信煙弾が向こうへ撃たれるのを見つけたわ!!」
向こう、とオリヴィアは前方を指さした。
「とにかく進むしかないのよ!!」