第3章 正しいと思う方を
「す、すみません、ぼーっとしてました……」
「奥の巨人は――」
アリアが顔を上げたとき、もう1体いた巨人を相手に1人の兵士が戦っているところだった。
「あ、あれは……」
アリアは空を舞う兵士を見た瞬間、目を見開いた。
あの飛び方には見覚えがあった。
なびくマント。揺れる黒髪。巨人を睨む鋭い目。
「リヴァイさん」
アリアが呟くと、エルヴィンは険しい顔をして巨人を討伐したリヴァイを見据えた。
「……? なんだか無駄な動きが多い、ような」
思わずアリアは首を傾げる。
立体機動の扱いは相変わらず素晴らしいものだが、ガスの消費がいつもより多い。
同じことをエルヴィンも感じていたのか、険しい顔のままリヴァイのほうへ馬を走らせた。アリアもそれを追う。
「あ! アリア!」
リヴァイの近くにはイザベルとファーランがいた。
イザベルはすぐにアリアに気づき、ぶんぶんと手を振る。
巨人の血を不快そうに拭ったリヴァイはエルヴィンを見て「チッ」と舌打ちをもらした。
アリアは控えめにイザベルに手を振り返す。
上官の前で羽目を外すのは少し気が引けた。
「――無駄な動きが多い。なにか……考え事でもあるのか?」
どこか冷ややかなエルヴィンの声にアリアは顔を引きつらせる。
リヴァイはギラギラと殺意のこもった目でエルヴィンを見上げた。
アリアにはエルヴィンがなにを考えて話しているのかわからない。だがあまり良くないことだとはなんとなく理解した。
「ぶ、分隊長?」
恐る恐る声をかけると、エルヴィンはリヴァイから目を逸らし、手綱を引いて進行方向を向いた。
「アリア、元の位置に戻るぞ」
「はい」
アリアもグリュックの頭をエルヴィンに向けた。
「じゃあな、アリア!」
「またね、イザベル」
ちょっと笑ってイザベルに手を振り、グリュックの腹を軽く蹴った。