第3章 正しいと思う方を
信煙弾のあがったほうへ近づくと、巨人の出す地響きがアリアに伝わってきた。
(もうすぐ……)
辺りに遮蔽物はない。
民家は巨人に破壊されたのか、ボロボロで立体機動には向かない。巨人との戦闘の際、訓練よりも難しくなるだろう。
アリアが目を細めたとき、動く影を見つけた。
「8m級を2体、視認!」
アリアが言うと、エルヴィンは頷いて馬のスピードを速めた。
「手前の1体をやるぞ。私がアキレス腱を斬り落とす」
「はい!」
2体の巨人の向こうではまだ戦っている兵士がかすかに見えた。彼らがいるなら2体とも殺す必要はない。
アリアはエルヴィンが飛び立ったのを確認し、鞍の上に立った。
見事な捌きでエルヴィンは巨人のアキレス腱を斬り落とす。
それを見た瞬間、アリアは宙へ身を投げた。
初めての巨人との戦闘。歩行能力を失っているとはいえ、両手は空いている。それに掴まれたら終わりだ。
(緊張、してる。でも……あぁ、やっぱり)
アンカーは巨人のうなじにしっかりくい込んだ。
今まで何度も体験した無重力。握りしめたブレードの重み。
ぐんっ、とアリアの体が巨人へ引き寄せられた。
――ザシュッ、
感じたことのない感覚が手のひらに広がった。
うなじへの斬りこみは訓練通りだ。巨人は全身の力が抜け、その場に倒れ込んだ。
「アリア、怪我は!」
「ありません!」
エルヴィンへ返事をし、アリアは地面に着地した。
肉を斬るのは初めてだった。
訓練ではうなじに見立てたものを斬っていたからだ。
「グリュック」
近寄ってきたグリュックに飛び乗り、アリアはエルヴィンに近づいた。
巨人を殺す。それは肉を削ぐことだ。
死を感じる行為だと、アリアは思う。
「アリア?」
エルヴィンに声をかけられ、アリアは我に返った。