第17章 殺したくてたまらないという顔
今でもその音を思い出せる。あの軽やかな音がアリアの耳の奥で響いていた。
「アリア?」
エルヴィンの声にアリアはハッと物思いから覚める。
いつの間にか鍵を強く握りしめていたらしい。アリアは慌てて力を緩め、改めてそれを見下ろした。
記憶の中の鍵とそう変わらない。だがあのときより少しだけ汚れているようにも見える。
「……どうしてエルヴィン団長がこの鍵を?」
エルヴィンに鍵を返し、アリアは聞いた。
これは元々グリシャの持ち物だったはずだ。
イェーガー家の人間であるエレンやミカサが持っているならまだしも、なぜエルヴィンが?
「これはエレンが持っていたものだ。地下牢に入れられる際、彼がこれを首から下げていたため、没収されたんだ。報告書ではこれは君の言っていた通り、イェーガー家の地下室の鍵だ。元々父であるグリシャ・イェーガー氏が所持していたが、いつの間にかエレンの手に渡っていたらしい」
「いつの間にか?」
「あぁ。そのように聞いている」
「……イェーガー先生は行方不明と聞きました。まだ見つかっていないんですか?」
膝の上で手を握りしめる。
エルヴィンは一瞬の沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「でも、不思議です」
息を吐き、アリアはふと浮かんだ疑問を口にした。
「先生はあの日、王都へ診療に行っていたんです。巨人が侵入したシガンシナやウォール・マリアにいたならまだしも、王都で行方不明なんて……」
言いながら、アリアは突然ぴたりと口を閉じた。
「まさか、でも、いくらなんでも深読みしすぎな気が……」
早口に呟き、エルヴィンを見る。エルヴィンはそれだけでアリアが何を言いたいのか理解したように「私も同じことを考えていた」と言った。
「なんの話だ」
それまで黙って聞いていたリヴァイが口を開く。
説明しようとして、何をどう言えばいいのかがわからなくなる。
「つまり、ええと、」
「私はグリシャ・イェーガーが壁の外に関することを何かしら知っていて、地下室にその情報が隠されているのではないかと踏んでいる」
代わりに答えたのはエルヴィンだった。