第17章 殺したくてたまらないという顔
あの子が人類の敵であることは絶対にない。
エレンは誰よりも巨人を憎んでいるのだ。母親を目の前で食われ、故郷を奪われた。それがどれだけエレンを傷つけたか。
「そうか。ならいい」
リヴァイは頷き、ソファにもたれる。片手を伸ばしティーカップを掴むと口元に持っていく。アリアはそれにつられるようにもう一つチョコレートを頬張った。
「実はエレンと面会できることになったんだ」
黙ってアリアとリヴァイのやり取りを聞いていたエルヴィンがゆっくりと口を開いた。
えっ、とアリアは顔を上げる。
「明後日、リヴァイと共に会いに行く予定だ。君も連れて行けたらいいんだが……。知っている顔があればエレンも安心するだろうし」
「明後日……」
「あぁ。そしてそのときに彼の意思を問う。それと」
エルヴィンはそこで言葉を切り、ジャケットの胸ポケットから鍵を取り出した。差し出されたそれを促されるまま受け取る。
くすんだ金色の鍵だ。首にかけられるように紐が結ばれていた。ずいぶん長い間誰かの首にかかっていたのか、紐部分は擦り切れ、薄くなっていた。
アリアにはなぜかその鍵に見覚えがあるような気がした。
「君はこれが何か知っているか?」
本題はこれなのだろう。
手の上で鍵をひっくり返す。
なんの変哲もない鍵だ。
「……イェーガー先生」
ぽつ、と呟く。
記憶の蓋が開き、もう数年は見ていない男の顔が浮かんだ。
メガネをかけ、穏やかに微笑んでいる男の顔だ。幼いころからお世話になっていた。
「イェーガー家の地下室の鍵です」
アリアは一度だけこの鍵を手に取ったことがあった。
エレンとアルミンが親友になってから、アリアもよくイェーガー家に遊びに行くようになっていた。
そんなある日、アリアは地下室への扉がわずかに開いていることに気がついた。カルラから「入ってはいけないよ」と言い聞かされていた扉だ。
だがその日はカルラは買い物に出かけ、エレンとアルミンは外に遊びに行っていた。そこには留守番を任されたアリアしかいなかった。
好奇心は抑えられなかった。
アリアは周りを見渡し、素早く扉の中に身を滑り込ませたのだ。