第17章 殺したくてたまらないという顔
「憲兵団の師団長と話をしてきたが、やはり彼らはエレンを速やかに処分することを望んでいる」
「……はい」
憲兵団の師団長。名は確かナイル・ドーク。
直接顔を合わせたことはないが、新聞で名前をよく見かけることがあった。
「あの薄らヒゲか」
鼻を鳴らしてリヴァイが言う。
声の調子からして散々な言われようだ。彼の中ではナイルは好ましくないらしい。まぁ、そもそも憲兵団と調査兵団はよく対立を起こしている。大きな騒ぎになることは決してないが、静かな火花を散らしているという言い方が正しいだろうか。
「他にもウォール教の連中は今すぐに壁を封鎖しろとうるさいし、保守派はエレンを調べるまでもなく今すぐ殺せといきり立っている」
やれやれ、といった調子でエルヴィンは息を吐いた。アリアは相槌を打ちながらソーサーに添えられていたチョコレートを口に放り込んだ。ほろ苦さが癖になる味だ。美味しい。
「そんな中、我々はエレンの巨人の力を活かしウォール・マリア奪還を目標としている。無謀だと思うか?」
「いえ、思いません」
ごくん、とチョコレートを飲み込み、アリアは即答した。
ティーカップを傾けたリヴァイの視線がじっとアリアを射抜く。エルヴィンは頷いて続きを促した。
「実際、エレンにはトロスト区の穴を塞いだ実績もあります。それに、巨人になれる人間の存在が明るみになる前──つまり数日前の我々が考えていたウォール・マリア奪還作戦よりも、エレンの力を活用できた方が成功率は桁違いに上がるでしょう。どのように奪還するかはまだ思いつきませんが」
「私も同意見だ。君のその言葉を聞けて安心したよ」
「アリア」
短い呼びかけにアリアはリヴァイを見る。
「奴──エレン・イェーガーとは親しいのか?」
唐突な質問にアリアは首を傾げた。
「はい。弟の幼馴染です。彼が幼いころから仲良くしていて、わたしにとってもう一人の弟のような存在です」
「これまでエレンが巨人になれるようなそぶりを見せたことは?」
「ありません。本人が一番混乱しているはずです」
アリアはキッパリと言い切った。
エレンがそんな重大な秘密を隠すような人間ではないことくらい、アリアが一番わかっていた。