第17章 殺したくてたまらないという顔
エルヴィンの目が天井へ向く。そして、深く長いため息を吐いた。
ジジ、と音を立てて蝋が溶ける。
アリアは黙っていた。
エルヴィンの父にその後何が起こったのか、想像は容易かった。同じだった。
「俺は父から聞いた話を街の子どもたちにも語って聞かせた。他の人は知らない話を知っている優越感があったのかもしれない。どちらにせよ、俺はどこまでいっても愚かな息子だった」
エルヴィンは深くソファにもたれ、ゆっくりと目を閉じた。
そのまま彼は微動だにしなかった。呼吸はどこまでも静かで、寝てしまったのかと心配になるくらいだった。
だが、エルヴィンの言葉は続いた。
「……その詳細を憲兵に尋ねられた日、父は家には帰って来ず、遠く離れた街で事故に遭って死んでしまった。俺の密告により父は王政に殺されたんだ」
──同じだった。
アリアとエルヴィンは同じ境遇を抱え、生きていた。
愚かな娘と愚かな息子。
何も知らない愚直な子どもだったというわけだ。
「父は、死の間際どう思っただろう。何を考えただろうか」
それは本当に小さな声だった。
調査兵団団長としてでも、エルヴィン・スミスという男としてでもなく、当時の幼い少年がそこにはいた。
「きっと俺に話をしたせいでこうなったとわかっていたはずだ。あんな話をするべきではなかったと後悔したかもしれない。何も考えずペラペラと喋った息子を恨んだだろうか。きっと、そうだ」
エルヴィンは両手で自分の顔を覆った。膝に肘を置き、俯く。
常に真っ直ぐ背筋を伸ばし、前だけを見据える男がひどく小さくなってしまっていた。大きいと思っていた背中は縮まるとこんなにも細く、頼りなく見えてしまうのか。だがこれこそが、この男の本当の姿なのかもしれない。
「……父さんと母さんは、どう思ったのかな」
アリアは呟いた。
アリアの心もまた幼いあの日に引き戻されていた。
何度も夢に見るあの夜の日だ。雨の降る、夜。