第17章 殺したくてたまらないという顔
「そもそも、文献など残っていなくても壁に入ってきた世代がその子どもに語り継ぐことだってできたはずなんだ。壁の外で一体何があったのか、壁の外はどんな世界なのか」
アリアは瞬きをした。
エルヴィンの言葉を聞き、アリアの脳裏にアルミンがいつも読んでいる本がよぎった。それは祖父の書斎に隠された本。壁の外について書かれた本だ。
「むしろ完全に口をつぐんで次世代に外の世界の情報を残さないことなど本来は不可能に近い」
祖父はアルミンが本を持ち出すと知ると、怒りはしなかったがいつもと様子が違っていた。
この本の存在を誰にも言ってはいけないと何度も繰り返していた。何があっても決して。ただならぬ様子にアルミンは頷くしかなかった。(もうその時点ではエレンに本の話をしていたのだが)。
「そして、父は続けてこう言った。『今から107年前、この壁に逃げ込んだ当時の人類は王によって統治されやすいように記憶を改ざんされたのだ』と」
「記憶を、改ざん?」
アリアは呆然と呟く。
エルヴィンはそんなアリアの反応を予想していたように、静かに頷いた。
「それを初めて聞いたとき、なんて突拍子もない話なんだろうと思った。だが父はどこまでも真剣で、息子を揶揄っているようには見えなかった」
「記憶を改ざんって、そんなことができるんですか? そんな、魔法みたいなことが」
少ない数の人間を洗脳することはできたとしても、それを全人類にやるなんて。しかも100年もの間ずっと。
不可能だ。そんなことできるわけがない。
「どうやってそれができるか、父は話してはくれなかった。父のそれはただの仮説止まりだった。だが俺は、父がどうしてその話を教室ではなく家でしたのか、それを察せられるほど賢くはなかった」
自嘲気味にエルヴィンは笑う。
エルヴィンがそんな風に笑うのをアリアは初めて見た。