第3章 正しいと思う方を
柔らかい風が頬を撫でる。
太陽の眩しさに一瞬目を細め、アリアは息を飲んだ。
「これが……外」
どこまでも広がる地平線。壁のない世界。鳥は自由に飛んでいる。
初めて見た外の世界は、本で読んだものや想像したものとはまったく違っていた。想像の倍以上素晴らしいものだった。
「長距離索敵陣形、開始!」
キースの号令が聞こえた。
ザッ、と一気に兵士が動いていく。
アリアは当初の予定通り、エルヴィンについて行くことになっている。
「じゃあまたな、アリア」
「き、気をつけて……」
「はい! お2人も、ご無事で!」
ランゲとナスヴェッターはそれぞれ少し離れた場所を走る。
2人はアリアにそれぞれ声をかけ、馬の頭を外側へ向けた。
外の世界に感動している暇はない。アリアは表情を引き締めるとぐっと上半身を前に傾けた。
調査兵団に入団し1ヶ月。
死に物狂いでどうにか頭に詰め込んだ長距離索敵陣形にわずかの不安はあるがやるしかない。
そう思ったとき、右斜め前でパシュッ、と一筋の赤い煙が上がった。
「赤の信煙弾……!」
アリアは団長の近くにいるため、信煙弾を撃つ必要はないが、あの煙の下でだれかが巨人と遭遇しているのかと思うと奇妙な感じがする。
アリアはごくっ、と唾を飲み込んだ。
巨人と接敵したときに自分は上手く立ち回れるだろうか。
「アリア」
唇を噛んだアリアに前を走っていたエルヴィンが声をかけた。
「は、はい!」
「訓練をしてきた日々を信じるんだ」
「訓練してきた、日々……?」
「あぁ。だから必要以上に恐れる必要はない。大丈夫だ」
エルヴィンにそう言われると不思議と安心感を覚える。
大丈夫のような気がした。
アリアは力強く頷いた。