第3章 正しいと思う方を
「アリア、気分はどうだ?」
緊張と熱気の混ざった奇妙な空気が辺りに立ち込める。
その空気の中、アリアはグリュックに乗っていた。
場所はウォール・マリアのシガンシナ区。目の前にはそびえ立つ50mの壁。もうすぐあの門が開く。
右隣にはスッと背筋の伸びたナスヴェッターが、左隣には興奮する馬を宥めるランゲが。後ろには近くの兵士と話をするボックがいた。
そして、前で純白の馬に乗ったエルヴィンが振り返り、聞いた。
「か、かなり緊張してます」
胃が口からこぼれ落ちそうだ。とは言えず、強ばった笑顔で答える。
エルヴィンはアリアを安心させるように柔和な笑みを見せた。
「気負いせず、行って帰ってくることだけを考えればいい。巨人の討伐はボックやランゲ、ナスヴェッターに任せておけ」
「任せとけ、アリア!」
「シャキッとしなよ、ナスヴェッター」
「は、はいぃ……! あ、足を引っ張らないようにが、頑張ります」
いつもと変わらないことに安心する。
オリヴィアが言っていたことを思い出し、アリアはガチガチに固まった体から力が抜けるのを感じた。
普段の第1分隊となにも変わらない。
「そろそろ時間だ」
エルヴィンの一言にアリアはぎゅっと手綱を握りしめた。
大丈夫。みんながいる。
ベテランのボックとランゲも。立体機動の腕が立つナスヴェッターも。そしてなにより、エルヴィンがいる。
「……アルミン、おじいちゃん」
壁の上にいた兵士が門が開くまでのカウントを始めた。
「いってきます」
――3
――2
――1
「絶望への反撃の刃となれ!!」
先頭からキースの声が響き、アリアの全身を打つ。
「人類のために心臓を捧げよ!!」
「「うぉおおぉおお!!」」
キースの声に呼応するように各々が拳を、ブレードを天に突き上げ雄叫びをあげた。
それに合わせ、アリアも不安と緊張を吹き飛ばすように声を出した。
「前身せよ!!」
馬の嘶き。土埃。駆ける音と共にアリアはグリュックの腹を蹴った。