第17章 殺したくてたまらないという顔
中央憲兵。
王政直轄の憲兵団であり、別名「王都の憲兵」と呼ばれている。その名の通り、王都で主な活動をしているためアリアも会ったことはない。
いや、一度だけあった。
なんという名前だったか。まだ特別作戦班が設立されてから間もなくのころ、リヴァイとエルヴィンと共に王都へ出向いたことがあった。そのときに参加したパーティーでぶつかった人間が確か名乗っていた。
姿はぼんやりと想い出せるが声も名前も忘れてしまった。
「……そう簡単に手が出せる相手ではありませんね」
小さな声でアリアは言う。
両親の仇を討とうにも、敵はあまりにも遠い場所にいる。ただの一般兵士がおいそれと会えるような相手ではない。
「君は言っていたな。ご両親を殺した人間を自分の手で殺すと。その意思に変わりはないのか?」
エルヴィンの問いかけにアリアは肩をすくめた。
「酔っ払いの戯言です。相手が誰であれわたしに人を殺すことなんて……」
兵士をやっていると暴力は身近にあった。
訓練兵団では対人格闘の基礎を叩き込まれるし、肉を簡単に削いでしまう刃を持っていつも飛び回っている。上官が教育だと言って部下を殴る、なんてこともあったりする。
だが、それでも。
「そもそも何百人といる中央憲兵の中からピンポイントで犯人を見つけることは不可能ですし」
暴力と殺人は違う。
仮に犯人がアリアの目の前に現れたとして、手元に武器があったとして、傷つけてやりたいと思うことはあっても本気で殺そうとはしないだろう。
人を殺すことは良くないことだから。
「俺も同じ考えだ。もっとも、俺の場合は十年以上も前のことだから余計に難しいだろうな」
ちらりとエルヴィンを見る。彼の瞳はアリアの奥を見つめていた。
やがて息を吸う音が聞こえた。
「俺の父の話をしよう。君には話していいかもしれない」
君と俺はよく似ているから。
最後につけ足された言葉はほとんど吐息だった。