第17章 殺したくてたまらないという顔
「聞かせていただけませんか」
どこまでも落ち着いた声でアリアは言った。
エルヴィンの視線がかすかに逸れる。
「なぜだ」
「……ハンジさんから先程、ある仮説を伺いました」
視界の端で蝋燭の炎が音もなく揺れるのを見た。
「超大型巨人と鎧の巨人の正体は、エレンと同じように巨人になれる人間なのではないか、という仮説です」
「あぁ。俺も同じことを聞いたよ」
「その仮説を聞き、わたしは考えました。もし本当にあの中身が人間だとして、どうして人類を絶滅に導くようなことをするのか、と」
彼らの目的を人類の絶滅だと仮定して。
本当にその目的が達成されたとき、彼らは一体どうするのだろう。
帰る場所はどこにある? 壁の中は巨人に満ちていて、人が生きていけるような環境ではない。
「──そこまで考えて、気づきました。壁の中は巨人に満ちている。ならば、外は? どこまでも続いているという海の向こう側は? そこに、何かがあるのかもしれない。そしてその何かを“彼ら”は隠したがっているのかもしれない」
「彼ら?」
アリアは頷く。身を乗り出し、エルヴィンの瞳を覗き込む。
「わたしの両親を殺した連中です」
両親を殺し、アリアを地下街へ売り飛ばした連中はとにかく必死だった。我々が無害な、ただの一般人であるにも関わらず、最終的に殺してしまった。壁の外へ行こうとしたというだけで。
腹の奥で怒りがとぐろを巻く。アリアは深呼吸し、それを抑える。
今は怒りに囚われている場合ではない。冷静に話を続けなければいけない。
「エルヴィン団長はご存知なのでしょう? そして、あなたのお父様を殺した人間と同一人物だと考えている。違いますか?」
エルヴィンは静かにソファの背もたれに背を預けた。
「いいや、違わない。君の推測は間違っていない。俺の父を殺したのは──中央憲兵の人間だ」
アリアは薄く唇を開いた。息と共に彼の言葉をなぞる。
「中央憲兵」