第17章 殺したくてたまらないという顔
超大型巨人と鎧の巨人が人間だとして、彼らの目的は何なのだろう。
冷め切って、油の浮いたスープをスプーンでかき混ぜる。口に運ぶ気にはなれなかった。
ただの突発的な行動とは思えない。何かしらの意図があるはずだ。
しかし壁内に巨人を侵入させてしまえば自分たちの帰る場所だってなくなる。ウォールマリアだけならまだしも、彼らはさらに侵略を試みた。壁内に巨人が満ちて、もし人類が絶滅したら。
「……中身の人間だって無事とは言えない」
人間なら食事をし、睡眠をとり、排泄をしなくてはいけない。
巨人体でそれができるのか? いや、きっとできない。
「…………」
発想を変えよう。
人類が巨人に食い尽くされたとしても構わないのだとしたら? 彼らは困らないのかもしれない。たとえこの世から人間がいなくなったとしても。
ならばそれはなぜだ? どうしてそう思える?
スプーンが器の底をカツカツと打つ。
アリアは額を手で押さえた。
なぜか脳裏に両親の姿が浮かんだのだ。気球から引きずり下ろされる二人の姿が。
(わたしたちは気球に乗って壁の外へ行こうとした。そして何者かによって殺された)
あれは物盗りではなかった。もしそうなら両親を拷問する必要などない。
「 どうして壁の外に行こうとした! 」
男の怒鳴り声が響く。父も母も「ただ見たかっただけ」と言った。壁の外を見たかっただけ。それ以上の理由などどこにもない。
だが男たちは執拗に聞いた。聞き出そうとした。その姿はあまりにも必死だった。
壁の外には隠したい何かがある。
そう、仮定する。
そもそも王政は壁の外に関する書物を一切禁止し、それを読むことも語ることさえ許していない。祖父の本棚にあったあの本も、誰にも見つからないように隠されていたらしい。
それならばこの仮定も成り立つ。
「……隠したいもの」
王政が人類から隠したい壁の外の秘密。
炎の水、氷の大地、砂の雪原。そして、海。
それが隠したいものなのか?
両親を殺した男たちも王政の人間なのだろうか。
背もたれに背を預け、脱力する。長いため息が勝手に吐き出された。
今日はもう何かを考えるにはあまりにも疲れすぎていた。