第17章 殺したくてたまらないという顔
疲れているはずなのに。
アリアは団長室の扉を見上げていた。
あのあとスープとパンを胃に詰め込み、そのまま寝てしまおうと思っていた。それなのに、なぜか足は自室ではなくエルヴィンの元へ向かっていた。
(団長もお疲れだろうし、そもそももう寝てしまっているかもしれない)
いきなり押しかけられても迷惑なはずだ。
「今日はもう、寝よう」
「こんばんは、アリア」
「ぅわッ!!」
背後からかけられた声にアリアは情けない声をあげて飛び上がった。
振り返ると、くすんだ顔をしたエルヴィンが立っていた。
「何か私に用が?」
これからまだ仕事をするつもりなのか、エルヴィンは団長室のドアを開けた。どうする? というように首を傾げられ、アリアは「失礼します」と言って部屋に入った。
「突然申し訳ありません。こんな時間に」
「気にする必要はない。私もまだまだ寝られそうにないんだ」
室内にはすでに蝋燭が灯っていて、暖炉にも薪が焚べられていた。
入ると同時に炎のぬくもりが体を包み込む。
知らず知らずのうちに入っていた力が抜けていくような気がした。
「好きなところに座ってくれ」
言われるがままソファに腰掛ける。壁にかけられた時計はすでに日付をこえていた。
「何か飲むかい?」
「いえ、結構です。ありがとうございます」
エルヴィンはアリアと向かい合うようにしてソファに座った。足を組み、思慮深い瞳でアリアを見据える。
「ずいぶん疲れた顔をしているね」
「エルヴィン団長こそ。……今日、というかもう昨日ですね。昨日は本当に大変な一日でした」
「あぁ、全くだ。しかしそれほど死傷者が出なかったのが不幸中の幸いと言うべきか」
アリアは俯いて自分の両手を見た。
乾燥し、節くれ立った手だ。数時間前まで、ここには巨人の返り血や負傷者の血がべったりとこびりついていた。