第17章 殺したくてたまらないという顔
アリアは何も言わなかった。ハンジの言葉を理解しようとして顔を歪める。
「超大型と鎧が、人間?」
呟く。
ハンジはテーブルにもたれ、腕を組んだ。
「五年前、ウォール・マリアの壁が破壊されたと報告があったときから違和感を覚えていた。そして今回のトロスト区襲撃を経て、その違和感が確かな形になった」
その両目が天井を向いた。
「あいつらはピンポイントに門を破壊している」
言われ、考える。
845年に壁が破壊されたとき、アリアは実際にその瞬間を目撃したわけではない。しかし生き残った者の証言によれば超大型巨人は的確に門のみを蹴り破り、鎧の巨人は内門を破壊した。
今回のトロスト区襲撃も同じだ。鎧は出現しなかったが、超大型が壁上の固定砲台と門を壊した。
「固定砲台を破壊したのは巨人が壁内に侵入したのち、反撃されることを防ぐためだと考えられる」
「でも、何のために」
「わからない。でも、彼らは確かに知性を宿している。そもそも外見からして無垢の巨人とは程遠い。しかし、人間が巨人になれるなんていう前例がなければこの仮説に辿り着きさえしなかった」
ハンジは深いため息をついた。
その声には少しの苦々しさと確かな興奮があった。
しばらくして、ハンジはアリアを見る。
「急にこんなことを話して悪かったね」
「い、いえ。わたしも聞けてよかったです」
今考えてみれば超大型や鎧の行動には普通とは異なるものがあった。だが人類はそこに目を向けなかった。気づけなかった。巨人に知性があるなんて、人間が巨人の中に入っているなんて、思いつきもしないのだ。
「エレンとの面会が許可されたら君にも知らせるよ。じゃあ、おやすみ」
「ありがとうございます。おやすみなさい、ハンジさん」
大きなあくびをしてハンジは食堂から立ち去っていった。
その後ろ姿を眺めていたアリアは、改めて残された食事と向き合う。